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広島地方裁判所 昭和61年(行ウ)3号 判決 1989年5月25日

原告

田阪正利

外一〇名

右原告ら訴訟代理人弁護士

阿左美信義

佐々木猛也

津村健太郎

坂本宏一

石口俊一

山田延廣

被告

広島県公安委員会

右代表者委員長

松本冬樹

右指定代理人

橋本良成

外五名

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、訴外株式会社和伸商事(以下「和伸商事」という。)に対し、昭和六一年一月一八日第一〇二―七三九号をもってした「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(以下「風営法」という。)三条による、同法二条一項七号のぱちんこ屋営業の許可処分(以下「本件処分」という。)は、これを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

主文同旨

(本案の答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  行政処分の存在

被告は、昭和六一年一月一八日、第一〇二―七三九号をもって、和伸商事に対し本件処分をした。右許可処分に係る和伸商事のぱちんこ屋営業の営業所(以下「本件パチンコ店」という。)の所在は、広島市西区福島町一丁目二四番一一号である。

2  原告らの所在地、住所、事業内容等

(一) 原告広島中央保健生活協同組合(以下「原告組合」という。)は、組合員の生活に有用な協同施設を設置し、組合員に利用させる事業その他を事業目的とする協同組合であるが、医療法一条の二第一項に規定する「病院」である総合病院福島生協病院(以下「本件病院」という。)を設置、運営している。本件病院の病棟建物は、広島市西区都町四二番七号にあり、原告組合の登記簿上の主たる事務所の所在地番は、右地番であるが、実際の事務所は、同区福島町一丁目二二番七号に置かれている。

原告田阪正利は、原告組合の理事であり、かつ本件病院の院長である。原告中本康雄及び同村田康昭は、いずれも原告組合の理事である。

(二) 原告社団法人ふくしま文庫(以下「原告ふくしま文庫」という。)は、民法三四条の公益法人であり、図書館法二条の私立図書館であるふくしま文庫を同区福島町一丁目二二番七号に設置し、運営している。

同原告は、昭和六〇年一一月二一日広島県教育委員会に対し、民法三四条による設立許可の申請がなされて受理され、昭和六一年一二月八日その設立が許可されたもので、本件処分当時は、設立中の社団法人であった。

原告中本康雄は、原告ふくしま文庫の副理事長、同田阪正利及び同藤川春雄は、その理事、同森岡富壽は、その監事であり、本件処分当時は、右各役員に就任することが予定されていたものである。

(三) 原告岡崎太の住所及びその経営する食肉店は、その肩書所在地に所在し、本件パチンコ店の敷地の北側に隣接している。

原告高木瑠璃子、同岡崎政文及び同宇野美子は、いずれも広島市西区福島町一丁目二五番一号に所在する広島市営住宅五号棟に居住するものである。

3  本件処分の違法性

(一) 風営法、政令、条例による規制について

風営法三条一項は、同法二条一項七号に定めるぱちんこ屋営業をなすには、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会の許可を受けなければならない旨、同法四条二項二号は、「営業所が、良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるとき」は、公安委員会は、その許可をしてはならない旨規定している。

同条を受けて、同法施行令(以下「風営法施行令」という。)六条は、営業所の設置を制限する地域(以下「制限地域」という。)の指定に関する条例の基準として、一号において、制限地域の指定は、イ 住居が多数集合しており、住居以外の用途に供される土地が少ない地域(以下「住居集合地域」という。)、ロ その他の地域のうち、学校その他の施設で特にその周辺における良好な風俗環境を保全する必要がある施設として都道府県の条例で定めるもの(以下「保護対象施設」という。)の周辺の地域について行うものとし、二号において、右ロの地域内の地域につき制限地域の指定を行う場合には、当該施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲概ね一〇〇メートルの区域を限度とし、その区域内の地域につき指定を行うことと規定している。

広島県は、右政令に基づき、昭和五九年一二月二五日、条例第二九号をもって「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例」(以下「本件条例」という。)を制定し、その四条一項において、風営法四条二項二号の条例で定める地域について規定し、右地域は、都市計画法八条一項一号に規定する第一種、第二種住居専用地域及び住居地域(一号)並びに図書館、病院等の保護対象施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲から、風俗営業の種別に応じて定める距離の区域内の地域(二号)とし、右距離について、右二号において、風営法二条一項一号から七号までの営業の場合、①学校又は図書館の施設の所在地が商業地域のときは七〇メートル、商業地域以外の地域のときは一〇〇メートルとし、②病院等の施設の所在地が商業地域のときは二〇メートル、商業地域以外の地域のときは五〇メートルと規定している。

(二) 本件条例四条一項二号の違法性

本件条例四条一項二号の定めによれば、風営法施行令に定める住居集合地域である第一種、第二種住居専用地域及び住居地域以外のその他の地域におけるぱちんこ屋営業の制限地域は、学校又は図書館の施設の所在地が商業地域のときは、その敷地から七〇メートル、商業地域以外の地域のときは、その敷地から一〇〇メートルの区域内の地域であり、病院等の施設の所在地が商業地域のときは、その敷地から二〇メートル、商業地域以外の地域のときは、その敷地から五〇メートルの区域内の地域であって、右地域内においては、営業は許可されないが、反面右地域以外の地域においては、営業が許可されることになる。

風営法は、「良好な風俗環境を保全する」ため風俗営業を許可制とし、同法四条二項二号で区域的に厳格な制限基準を設け、これを受けて制定された同法施行令六条は、保護対象施設の周辺の地域については、「おおむね百メートルの区域を限度とし、その区域内の地域につき」制限地域の指定を行う旨の基準を規定している。しかるに、本件条例は、右政令の趣旨を著しく緩和し、特に、保護対象施設の所在地が商業地域の場合、学校又は図書館についてはその敷地から七〇メートル、病院等については同じく二〇メートル離れていれば、風俗営業を許可できるとしているのであって風営法及び同法施行令の趣旨を無視し、著しく法令の趣旨を逸脱しているのであって、裁量権行使の範囲を逸脱した違法な条例である。

したがって、本件パチンコ店の営業の許可については、風営法施行令六条二号にいう「おおむね百メートルの区域」に病院等の施設が存在するか否かを判断基準とすべきであるが、本件処分は、右のとおり違法無効な本件条例の基準に適合するものとしてなされたものであるから違法である。

(三) 本件パチンコ店の専用駐車場の存在

風営法は、「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止」することを目的としているが(一条)、その趣旨からすれば、ぱちんこ屋営業の許可をするに当たっては、ぱちんこ遊技機が備え付けられた建物のみでなく、専用駐車場のようにぱちんこ屋営業に付随する施設についても、これに出入りする客によって生ずる喧噪や享楽的雰囲気等によりその周辺の風俗環境が影響を受けるおそれがあるから、これを当然考慮すべきものである。したがって、風営法四条二項二号にいう「営業所」は、ぱちんこ遊技機が備え付けられた建物だけでなく、当該ぱちんこ屋営業と不可分一体である各施設を含むものと解すべきである。

ところで、近時の自動車社会では、市内の繁華街以外では、駐車場なくしては、ぱちんこ屋営業は成り立たず、専用駐車場を併設することが不可欠となっているところ、本件パチンコ店の場合も、その東側(別紙図面表示の赤線で囲んだ部分)に専用駐車場(以下「本件専用駐車場」という。)が設けられている。同駐車場は、本件パチンコ店の開店当初から遊技客の専用駐車場として用いられており、本件パチンコ店の店舗建物とわずか幅員八メートルの市道を隔てた向かい側に位置し、右市道は、自由に横断歩行できる道路であり、本件パチンコ店開業以来、本件専用駐車場は、昼夜を問わず、また夜遅くまで遊興客が往来する場所となっており、付近の清浄な環境を破壊し、悪影響を与えている。また、和伸商事は、本件パチンコ店の営業許可申請をした当初においては、店舗西側に接着して立体駐車場を設置する計画であったが、これが完成しなかったため、その代替施設として本件専用駐車場を設けたのであって、本件処分は、右立体駐車場の代替施設として本件専用駐車場が設けられたことを前提としてなされたものである。更に、被告は、新規にぱちんこ屋営業の許可申請がなされた場合、使用を許可するパチンコ台数の六、七割程度の台数の自動車が駐車できる駐車場の確保を要求し、それが確保できないときは、そのままでは許可しなかったり、パチンコ台数を減じたりしている。このような処置は、ぱちんこ店の開業により付近の交通が混雑することにも配慮しながら、自動車による来店が不可避であり、一定規模の専用駐車場施設が営業に必要不可欠であるとの認識に立って、風営法一条の目的の一つである「清浄な風俗環境の保持」を達成するために執られているものである。本件処分の場合も、右立体駐車場の代替施設として本件専用駐車場が確保されたが、立体駐車場が未完成であったことなどから、パチンコ台数を制限して許可されている。

以上に照らし、本件専用駐車場は、本件パチンコ店の店舗と不可分一体となった施設であるから、「営業所」の一部というべきである。

そして、本件病院(病棟)の敷地から本件専用駐車場の敷地までの距離は、5.8メートルしかないから、本件処分は違法である。

(四) 本件条例は、「病院とは、医療法一条の二第一項に規定するものをいう。」と定め、医療法一条の二第一項は、「病院」とは、「医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業をなす場所であって、患者二十人以上の収容施設を有するものをいう。」と規定している。

医師が医療をなすには、直接の診療のみならず、薬剤の投与業務も必要であり、かつ、これに要する人材の確保、右に伴う経理、給与などの管理業務(事務部門)も不可欠であり、これらが一体として医業が成り立つのであって、直接の医療行為を除く病院事務も医業に含まれることが明らかである。したがって、病院とは、単に医師が患者に直接医療行為をするに必要な場所のみを指すのではなく、治療するに必要な一体的な組織、場所すべてを含むものと解される。

ところで、原告組合は、前記のとおり、広島市西区福島町一丁目二二番七号(別紙図面の「生協事務所ふくしま文庫」と表示された部分)に事務所(以下「原告組合事務所」という。)を置いており、同事務所においては、本件病院の調剤事務や原告組合の組合員の健康相談業務が行われ、実質的に治療行為が行われているばかりでなく、同事務所は、同区都町四二番七号にある本件病院の病棟建物が手狭になったため、事務部局(病院事務を含む。)を移転したもので、病棟建物と三〇ないし四〇メートルしか離れておらず、右事務所は、本件病院の施設の一部である。

そして、右事務所は、都市計画法八条一項一号に規定する住居地域である。本件条例によれば、病院が住居地域にある場合、その敷地から五〇メートルの区域内の地域は、ぱちんこ屋営業の制限地域となるところ、右事務所の敷地と本件パチンコ店の敷地との距離は、34.9メートルしかないから、本件処分は違法である。

(五) ふくしま文庫の存在

原告ふくしま文庫は、前記のとおり、昭和六〇年一一月二一日に広島県教育委員会に対し設立許可の申請がなされ、本件処分当時は、設立中の社団法人であったが、広島市西区福島町一丁目二二番七号(別紙図面の「生協事務所ふくしま文庫」と表示された部分)に図書館ふくしま文庫を開設し、昭和六〇年一〇月三〇日から貸出業務を始め、既に活発な図書館活動を行っていたから、右図書館は、本件条例にいう「図書館」に該当し、その敷地は、本件処分当時、図書館の敷地又は少なくとも本件条例にいう図書館の「用に供するものと決定した土地」に該当していた。そして、右図書館は、住居地域に存在する。本件条例によれば、図書館が住居地域にある場合、その敷地から一〇〇メートルの区域内の地域は、ぱちんこ屋営業の制限地域となるところ、右図書館の敷地と本件パチンコ店の敷地との距離は、34.9メートルしかないから、本件処分は違法である。

(六) 住民の権利侵害

風営法及び同法施行令は、憲法一三条により保障された国民の幸福追求権を具体化して、住民の良好な環境を享受する権利を保障したものと解すべきである。

本件パチンコ店の開店については、その敷地の二〇〇メートル以内にある広島市西区福島町一丁目一六番地ないし二六番地の住民のうち九〇パーセント以上の者がこれに反対し、被告にも陳情していた。このような近隣住民の反対を知りながら、本件パチンコ店の営業を許可した被告の本件処分は、住民の前記権利を侵害し、風営法四条二項二号及び同法施行令六条一号イの趣旨に反した違法な処分である。

(七) 手続の違法

風営法五条及び同法に基づく許可申請書の添付書類等に関する総理府令一条二号によると、風俗営業の許可申請書には、「営業所の使用について権原を有することを疎明する書類」を添付することが必要である。右総理府令一条二号の趣旨は、営業所として、実際使用、営業できる者に対してのみ許可を与えようというものであり、この趣旨からすれば、営業所が建物の場合は、少くとも完工済みであることを要する。

しかし、本件処分に当たって、被告は、完工済みである建物の存在を証明する書類を提出させず、仮使用許可証の添付のみで本件処分を下している。また、前記のとおり、本件専用駐車場は、営業所の一部であるが、その使用権原を証明する書類も添付されていない。

このように、本件処分は、法の要求する必要な書類を添付していないのになされたものであるから、違法である。

4  よって、原告組合は、本件病院の設置、運営者として、原告ふくしま文庫は、図書館ふくしま文庫の設置、運営者として、原告田阪正利は、原告組合の理事、本件病院の院長及び原告ふくしま文庫の理事として、原告中本康雄は、原告組合の理事及び原告ふくしま文庫の副理事長として、原告藤川春雄は、原告ふくしま文庫の理事として、原告村田康昭は、原告組合の理事として、原告森岡富壽は、原告ふくしま文庫の監事として、その余の原告らはいずれも近隣住民として、それぞれ本件処分の取消しを訴求する原告適格を有するから、前記違法事由に基づいてその取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は本件パチンコ店の所在地番を除き、認める。本件パチンコ店の所在地番は、広島市西区福島町一丁目二四番の二、三、五、六、七である。

2  同2の(一)の事実中、原告組合の事業目的、同原告が本件病院を設置、運営していること、本件病院の病棟建物と原告組合の登記簿上の主たる事務所が同原告主張の地番にあることは認めるが、その余は不知。

3  同2の(二)の事実中、設立許可申請がなされたことは認めるが、その余は争う。

4  同2の(三)の事実中、各原告らがそれぞれ肩書地に居住していることは認めるが、その余は不知。

5  同3の事実中、(一)は認めるが、その余は争う。

6  同4は争う。

三  被告の主張

1  本案前の主張(原告適格)

行政処分の名宛人以外の者がその処分の取消しを求めるにつき、行政事件訴訟法九条にいう「法律上の利益を有する」というためには、その者が主張する利益が当該行政処分の根拠となった行政実体法規の趣旨に照らして、法が名宛人の利益保護に準ずると認められる程度の保護をしようとしている場合に限るべきであるが、原告らは、以下に述べるとおり風営法、同法施行令及び本件条例の規定に照らし、本件処分の取消しを訴求する原告適格を有しない。

なお、原告らは、本件条例四条一項二号が違法無効であると主張するが、風営法施行令六条二号の規定によれば、住居集合地域以外の地域における営業制限地域の指定に関する基準は、「おおむね百メートル」が最大限度であって、それを超えて営業制限地域の指定はできないがそれ以内であれば、当該施設であっても営業制限地域を全く指定しないことも含めて、すべて各地域の実情に適合するように条例に委ねる趣旨と解するほかはない。したがって、本件条例四条一項二号の規定は、風営法施行令六条の各基準に合致したものであることが明らかであって、適法である。

(一) 原告組合について

(1) 本件病院は、商業地域にあるところ、その敷地と本件パチンコ店との距離は、三三メートルであるから、同病院は、本件条例四条一項二号に該当する地域内には存在しない。

(2) 風営法四条二項二号にいう「営業所」とは、風営法上の「営業所」の用語例に照らし、本来、当該風俗営業が直接行われる建物その他の施設の存する場所のみをいうものといわねばならない。したがって、ぱちんこ屋営業の専用駐車場については、例外的に、直接当該営業の行われている建物その他の施設と区画、構造上も管理、利用上も截然と区別されていないような極く限られた場合にあっては、専用駐車場も「営業所」と一体視した上で、営業制限地域を定める基準とすることが許されるけれども、右のような場合を除き、原則として営業所には当たらない。

本件専用駐車場は、本件パチンコ店とは幅員八メートルの公道によって隔てられた場所にあるのであって、右が本件パチンコ店の遊技客の専用であるからといって、「営業所」に含まれないことは明らかである。

なお、被告は、ぱちんこ屋営業の許可に当たって、一定台数の駐車場の確保を指導しているが、これは、風営法の許可要件であるからではなく、交通安全確保の観点から行っているものであり、本件パチンコ店の場合も同様であるから、右指導を理由として本件専用駐車場を営業所の一部とみるのは相当でない。

したがって、本件専用駐車場が「営業所」の一部であることを前提に、本件病院が本件条例四条一項二号に該当する地域内に存在するものということはできない。

(3) 原告組合事務所は、その事務所敷地について病院開設の許可等の手続がとられたことはなく、右事務所建物についての建築確認申請も主要用途は「事務室」としてなされている。また、右事務所内において入院患者の診察や治療が行われている事実もない。本件条例四条一項二号所定の病院とは、医療法一条の二第一項に規定するものに限られるのであって(本件条例四条一項二号の備考の二)、右事務所は、法律上も、またその実態においても本件条例四条一項二号にいう「病院」には当たらない。

したがって、原告組合事務所が本件病院の一部であることを前提として、本件病院が本件条例四条一項二号に該当する地域内に存在するものということはできない。

(4) 以上のとおり、本件病院は、本件条例四条一項二号に定める制限地域内に存在せず、右地域制限による保護対象施設ではないから、原告組合は、本件処分の取消しを訴求する原告適格を有しないものというべきである。

(二) 原告ふくしま文庫について

本件条例四条一項二号にいう「図書館」とは、図書館法二条一項に規定するものと解すべきであるが(本件条例二条、風営法二八条)、原告ふくしま文庫は、本件処分当時、設立中であり、民法三四条所定の許可を受けた社団法人ではなかったから、図書館法二条に規定されている図書館の設置主体ではない。

また、本件条例四条一項二号にいう図書館の「用に供するものと決定した土地」とは、少なくとも図書館法二条所定のいずれかの設置主体が、図書館設置場所として正式に決定した土地をいうものと解すべきであるから、原告ふくしま文庫主張のふくしま文庫設置場所がこれに該当しないことは明らかである。

したがって、本件処分当時、原告ふくしま文庫が設置を予定していた図書館は、本件条例四条一項二号で定めた制限地域内の保護対象施設に該当しないから、同原告は、本件処分の取消しを訴求する原告適格を有しない。

(三) 原告組合及び原告ふくしま文庫を除くその余の原告らについて

右原告らは、本件条例四条一項二号に該当する施設を有する者ではなく、単に本件パチンコ店の近隣に居住している一般住民にすぎないところ、風営法がかかる住民に何らかの具体的権利を保障したものとみる余地は全くないから、右原告らは、本件処分の取消しを訴求する原告適格を有しない。

2  本案の主張

(一) 本件パチンコ店の許可申請には、風営法四条一項ないし三項所定の各不許可事由はないから、本件処分は適法である。

(1) 本件病院及びふくしま文庫が本件条例四条一項二号で定めた制限地域内の保護対象施設に該当しないことは、前記1で述べたとおりである。

(2) 本件パチンコ店は、本件処分以前に、風営法四条二項一号に定める営業所の構造設備の技術上の基準を充たして完成していた。

(3) 原告ら主張の総理府令一条二号は、営業許可申請に際して「営業所の使用について権原を有することを疎明する書類」を添付させることとしているが、右規定は、営業所の使用権を有しない者に許可を与えることになれば、その者と当該営業所の所有者等との間で無用の紛争を引き起こすおそれがあるので、これを避けるために設けられたものであり、したがって、申請者において当該営業所の使用権を有することを推認できるだけの書類が添付されておれば、右規定の要件を充足したものと取り扱うことは可能である。本件許可申請に当たっては、本件パチンコ店の敷地の登記簿の写しと営業所建物の建築確認書の写しが添付されており、格別右土地や建物をめぐる紛議等も認められなかったことから、被告としては、これらの添付書類によって和伸商事が本件パチンコ店の使用権を有していることを優に肯認できたのであるから、その手続には、何ら違法はない。

また、本件専用駐車場は、「営業所」に該当しないから、その使用権原を疎明する書類を添付する必要はない。

(二) 本件パチンコ店の近隣住民の同意を得ることが、本件処分の法律上の要件になることは、いかなる意味においてもありえないから、本件処分をなすに当たり、病院等の施設管理者の同意や付近住民の賛否の意見は、法的になんら意味を有しないものである。

四  被告の主張に対する原告らの認否

すべて争う。

第三  証拠<省略>

理由

一行政処分の存在

請求原因1の事実は、本件パチンコ店の所在地番を除き、当事者間に争いがない。<証拠>によれば、本件パチンコ店の所在地番は、広島市西区福島町一丁目二四番の二、三、五、六、七であることが認められる。

二原告適格

取消訴訟の原告適格について規定する行政事件訴訟法九条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであるが、一般に法律が対立する利益の調整として一方の利益のために他方の利益に制約を課する場合において、それが個々の利益主体間の利害の調整を計るというよりもむしろ、一方の利益が現在及び将来における不特定多数者の顕在的又は潜在的な利益の全体を包含するものであることにかんがみ、これを個別的利益を超えた抽象的、一般的な公益としてとらえ、かかる公益保護の見地からこれと対立する他方の利益に制限を課したものと見られるときには、通常、当該公益に包含される不特定多数者の個々人に帰属する具体的利益は、直接的には右法律の保護する個別的利益としての地位を有せず、いわば右の一般的公益の保護を通じて付随的、反射的に保護される利益たる地位を有するに過ぎないとされているものと解されるから、そうである限りは、かかる公益保護のための私権制限に関する措置についての行政庁の処分が法律の規定に違反し、法の保護する公益を違法に侵害するものであっても、そこに包含される不特定多数者の個別的利益の侵害は、単なる法の反射的利益の侵害にとどまり、かかる侵害を受けたにすぎない者は、右処分の取消しを求めるについて同条に定める法律上の利益を有する者には該当しないものと解すべきである。他方、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の個別的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、これと並んで、それらの利益の全部又は一部につきそれが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、右行政法規に違反してされた行政庁の処分によりこれらの利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消しを訴求する原告適格を有するということができる。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、結局、当該行政法規の趣旨、目的等に照らし、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられているとみることができるかどうかによって決すべきである。

そこで、右のような見地に立って、以下、風営法に基づく風俗営業の許可処分つき原告らがその取消しを訴求する原告適格を有するか否かを個別に検討する。

1  原告組合について

風営法三条一項は、風俗営業を営もうとする者は、都道府県公安委員会の許可を受けなければならない旨を定めているが、これは、風営法が一般的に風俗営業を営むことを禁止した上、特定の場合に許可によりこの禁止を解除する趣旨を定めたものである。同法がかかる許可制度を採用したゆえんのものは、風俗営業をする自由も、憲法二二条一項の職業選択の自由の一内容として保障されてはいるが、営業の自由も、もとより、公共の福祉による制約を受けるところ、風俗営業が善良の風俗と清浄な風俗環境に障害を及ぼすおそれの強い営業であることにかんがみ、公共の福祉の見地からその営業活動を規制せんとするものにほかならない。このように、風俗営業の許可制度は、風俗営業を営もうとする者に対しては営業の自由を制約する性格を有するものであるが、他方、これによって達成しようとする目的として、風営法一条は、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持することと規定しているのであって、営業許可制度は、善良の風俗、清浄な風俗環境の保持を目的とするものというべきであり、風営法は、かかる一般的公益の保護を目的として許可制度を定めたものと解される。

ところで、風営法四条は、風俗営業許可の基準について定め、その一項で人的欠格事由を、二項で営業所についての欠格事由を、三項で遊技機の欠格事由をそれぞれ規定している。そして、同条二項二号は、許可申請に係る営業所が、良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い、都道府県の条例で定める地域内にあるときをもって欠格事由として規定している。したがって、都道府県は、政令で定める基準に従い、条例で営業所の設置場所を制限することができるのであり、公安委員会は、許可申請に係る営業所が右制限地域内にあるときは、許可をしてはならないのである。これを受けて、風営法施行令六条は、政令で定める基準について定め、制限地域の指定は、住居集合地域及びその他の地域のうち、保護対象施設の周辺の地域について行うものと規定している。そして、広島県は、昭和五九年一二月二五日、条例第二九号をもって本件条例を制定し、その四条一項は、制限地域は、第一種、第二種住居専用地域及び住居地域(一号)並びに保護対象施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲から、風俗営業の種別に応じて定める距離の区域内の地域(二号)とし、右距離について、右二号において、風営法二条一項一号から七号までの営業の場合、①学校又は図書館の施設の所在地が商業地域のときは七〇メートル、商業地域以外のときは一〇〇メートルとし、②病院等の施設の所在地が商業地域のときは二〇メートル、商業地域以外の地域のときは五〇メートルと規定している。

このように、風営法、同法施行令及び本件条例が、第一、第二種住居専用地域及び住居地域以外の地域にある学校、図書館、病院等の保護対象施設を列挙し、その敷地の周囲から一定の距離の区域内の地域を風俗営業の制限地域とし、同地域においては風俗営業を許可しないこととしたのは、学校、図書館の教育学習施設や病院等の医療福祉施設においては、その設置目的や業務内容からして一般日常生活以上にその周辺の善良で静穏な環境を維持することがとりわけ肝要であるとの見地に立ち、近隣に風俗営業が行われることによって生じるこれら施設の円滑な業務の遂行に支障を来すことを防止するためであると解される。してみると、右のような制限地域に関する風営法等の規定により、不特定多数者の享受する前示一般的公益と並んで、特定の保護対象施設につき善良で静穏な環境の中で円滑に業務を運営するという個人の個別的利益が法的に保護されているものと解するのが相当である。

したがって、保護対象施設の設置者は、制限地域内に風俗営業が許可された場合、右許可処分につきその取消しを訴求する原告適格を有するものというべきである。

なお、原告らは、本件条例四条一項二号は、風営法の趣旨、同法施行令の基準の趣旨に反し、違法であると主張するので、判断する。

風営法施行令六条二号は、風営法四条二項二号の規定を受けて、制限地域の基準として、保護対象施設の周辺の「地域内の地域につき制限地域の指定を行う場合には、当該施設の敷地の周囲おおむね百メートルの区域を限度とし、その区域内の地域につき行うこと。」と規定している。風営法、同法施行令の右規定の趣旨は、風俗営業の営業所の設置場所の規制について、全国的な統一化を図るとともに、地域の実情に応じた規制を加味することとするが、制限地域の指定が憲法上保障された営業の自由を制限するものであることにかんがみ、条例で定める制限地域の指定が過度に広範囲なものになることがないよう、政令によって規制の上限を基準として規定し、一〇〇メートルの区域を限度として、その範囲内で各地域の実情に応じて、条例により制限地域を指定すべきものとしたものと解すべきである。してみれば、本件条例四条一項二号の規定の内容は、風営法施行令の前記基準の範囲内であって、風営法、同法施行令の規定の趣旨に合致しており、これをもって違法であるとはとうてい解し得ないから、原告らの右主張は採用の限りでない。

そこで、次に、原告組合が本件処分の取消しを求め得る保護対象施設の設置者であるか否かについて、検討することとする。

(一)  原告組合の事業目的、同原告が本件病院を設置、運営していること、病棟建物と登記簿上の主たる事務所が同原告主張の地番にあることは当事者間に争いがない。

原告組合は、本件専用駐車場は、本件パチンコ店の営業所の一部であると主張するので、検討するに、<証拠>を総合すると、本件専用駐車場は、別紙図面表示の赤線で囲んだ位置にあり、南側ブロック塀で、東側と北側はフェンスでそれぞれ区切られ、西側は、幅員八メートルの市道に接しており、右市道をはさんでその西側に本件パチンコ店があること、本件専用駐車場は、昭和六一年一月二三日の本件パチンコ店の開店当初から設けられており、本件パチンコ店の遊技客がもっぱら利用する駐車場であり、駐車場利用者は、右市道に面している本件パチンコ店の東側入口から店に出入りしていることが認められ、この認定に反する証拠はない。

そこで、風営法四条二項二号にいう「営業所」の意味について考察する。風営法においては、「営業所」という用語が右以外にも用いられているので、調べてみるに、(1) 「当該営業に係る営業所に設置される遊技機が著しく客の射幸心をそそる」(四条三項)、(2) 「許可証を営業所の見やすい場所に掲示しなければならない」(六条)、(3) 「営業所内の照度を、(中略)数値以下として」(一四条)、(4) 「その営業に係る料金で(中略)ものを、営業所において客に見やすいように表示しなければならない」(一七条)、(5) 「十八歳未満の者がその営業所に立ち入ってはならない旨(中略)を営業所の入り口に表示しなければならない」(一八条)、(6) 「営業所で、十八歳未満の者に客の接待をさせ」(二二条二号)、(7) 「遊技の用に供する玉(中略)を客に営業所外に持ち出させること」(二三条一項三号)などであるが、右のような用語例を通覧すると、風営法にいう営業所とは、直接風俗営業の用に供する建物又はその他の物的施設をいい、ぱちんこ営業についていえば、ぱちんこ遊技機及び客席等を設けてぱちんこ遊技をさせる建物又はその他の物的施設をいうものと解され、風営法四条二項二号の「営業所」についても同様に解するのが相当である。

したがって、ぱちんこ屋営業に伴う専用駐車場についても、原則として「営業所」には含まれず、例外的に、それがぱちんこ遊技をさせる建物又はその他の物的施設と区画、構造上も管理、利用上も截然と区別されず、社会通念上、両者が一体とみられ、区別することができないような場合にのみ、「営業所」に含まれ得るものと解すべきである。

原告らは、風営法四条二項二号の「営業所」にいて、例えば、ぱちんこ屋営業の場合、ぱちんこ遊技機が備え付けられた建物のみでなく、営業に付随する施設に出入りする客によって生じる喧噪や享楽的雰囲気等によりその周辺の風俗環境が影響を受けるおそれがあることを考慮し、右建物だけでなく、これと不可分一体の施設を含むものと解すべきであると主張する。

しかしながら、「営業所」という文言の一般的語義のほか、風営法における前記用語例に照らし、「営業所」とは直接風俗営業の用に供する建物又はその他の物的施設を意味すると解するのが最も自然であり、「営業所」の外延いかんは、風俗営業の制限地域の範囲の決定に直接影響するものであって、憲法上保障された職業選択の自由の一つである営業の自由に深くかかわる事項であるから、「営業所」についてむやみに拡大解釈をするのは相当でない。また、本件条例が、風俗営業の場所と保護対象施設との距離制限を受けている趣旨は、これらの施設がその設置目的を十分達成できるようにするため、その施設の周辺の静穏や清浄な環境を保持することにあり、それは、単に営業所自体から発せられる喧噪や享楽的雰囲気等のみならず、その営業所に出入りする客によって生ずる喧噪や享楽的雰囲気等からもこれらの施設を保護することにあると解されるけれども、直接風俗営業の用に供する建物又はその他の物的施設に直接出入りする客によって生ずる喧噪や享楽的雰囲気等の周辺の風俗環境に及ぼす影響と右以外の、前記例外的な場合を除いたその余の専用駐車場又はその他の付随する物的施設に出入りする客によって生ずる喧噪等の周辺の風俗環境に及ぼす影響とを比べた場合、後者の施設がそれ自体は享楽的施設でないことから、一般的には、自ら差異があるのであって、これらを同一視することはできず、風俗環境に対する影響を根拠に、「営業所」を直接風俗営業の用に供する建物又はその他の物的施設以外に拡張して解釈するのは相当でない。

そして、前記認定によれば、本件専用駐車場は、ぱちんこ遊技機を設置し、客にぱちんこ遊技をさせる建物と幅員八メートルの市道によって隔てられた場所にあり、右建物と区画、構造上も管理、利用上も一体となっているものとはとうてい認めることはできない。したがって、本件専用駐車場は、「営業所」には含まれないものと認めるのが相当である。

なお、<証拠>によれば、ぱちんこ屋営業について、新規の営業許可申請がなされたときには、被告は、申請者に対し、当該営業所に設置されるぱちんこ遊技機の台数にある程度見合った収容力を有する駐車場を確保するように行政指導していること、和伸商事は、本件パチンコ店の営業許可申請をした当初においては、本件パチンコ店の西側に隣接して立体駐車場を建築し、駐車場を確保する予定であったが、その後、右建築を取り止め、右立体駐車場の敷地部分を屋外駐車場とするほか、本件専用駐車場を設けることとしたが、駐車場の収容台数が当初の計画より減ったことなどから、被告の行政指導に応じて、本件パチンコ店に設備されるぱちんこ遊技機の台数を当初予定していたものより減らしたことが認められる。しかしながら、風営法上、駐車場の確保は、風俗営業の許可要件とはされておらず、右証言によれば、右行政指導は、風俗営業の開業により客が自動車で来店し、付近の交通が混雑することから、道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図るという別の行政目的を達成するためになされているものであって、風営法上の規制とは関係がないことが認められる。

したがって、右のような行政指導の点は、本件専用駐車場が「営業所」に含まれない旨の前記認定判断を左右するものではないというべきである。

(二)  原告組合は、原告組合事務所が保護対象施設である「病院」に該当すると主張するので、案ずるに、<証拠>を総合すれば、原告組合の主たる事業は、本件病院の運営であること、従来、本件病院の事務を含む原告組合の事務は、本件病院の病棟建物内にあった事務所で行われていたが、手狭になったので、原告組合は、昭和五九年に右病棟建物から約三〇メートル北方の同区福島町一丁目二二番七号の敷地(別紙図面の「生協事務所ふくしま文庫」と表示した部分)上に軽量鉄骨造二階建の原告組合事務所を建築し、右事務のうち総務関係、職員の給与計算、病院の保険請求、薬剤の仕入れ、管理、組合員名簿の管理、組合員の保険相談などの事務を右事務所に移して処理していること、建築確認申請では、右事務所建物の主たる用途は、「事務所」とされており、また、右事務所については、医療法七条による病院開設許可の手続はなされていないこと、右事務所には、医師はおらず、医療行為は行われていないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、本件条例四条一項二号が保護対象施設として規定する「病院」とは、同号の規定によれば、医療法一条の二第一項に規定するものをいうと定義されている。そして、同項の規定によれば、「医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業をなす場所であって、患者二十人以上の収容施設を有するもの」が「病院」であるから、「病院」というためには、少なくとも医師又は歯科医師が医業又は歯科医業、すなわち業として疾病の診察又は治療行為を行う場所であることを要するものと解すべきところ、前記認定に照らし、原告組合事務所で行われている事務、業務は、右にいう医業に該当しないことが明らかであるから、原告組合事務所をもって保護対象施設である病院(の一部)ということはできない。

よって、この点に関する原告組合の主張は採用できない。

(三)  以上のとおり、本件専用駐車場は、本件パチンコ店の「営業所」には含まれず、また、原告組合事務所は、本件病院の一部ではないのであって、<証拠>によれば、本件病院は、商業地域に含まれる広島市西区都町四二番七号に所在し、その敷地と本件パチンコ店の敷地との最短距離は、33.5メートルであることが認められる。したがって、本件病院は、本件条例四条一項二号に定める制限地域内に存在せず、右地域制限による保護対象施設ではないから、原告組合は、本件処分の取消しを訴求する原告適格を有しないものというべきである。

2  原告ふくしま文庫について

<証拠>によれば、広島市西区福島町においては、かねてから読書活動が盛んに行われていたが、昭和六〇年になって私立図書館設立の気運が生じ、同年九月本件パチンコ店進出の計画が明らかになってから、右気運が一層高まり、有志により社団法人を設立した上、私立図書館「ふくしま文庫」を設置、運営することになり、その後、社員八七名の参加が決まり、寄贈図書三〇〇〇冊、基本財産一〇〇〇万円を基礎として、同年一〇月三一日社団法人ふくしま文庫の設立総会が開催されたこと、ふくしま文庫は、広島市西区福島町一丁目二二番七号に設置するものと決定され、同年一一月一五日原告組合より右設置場所にある原告組合事務所の一階の一部を賃借した上、寄贈図書三〇〇〇冊を受け入れ、同年一一月一五日開館式が行われ、同月二一日に広島県教育委員会に社団法人ふくしま文庫の設立許可申請がなされたこと(右設立許可申請がなされたことは当事者間に争いがない。)、同月三〇日から図書の貸出が開始され、右建物において図書館業務が行われてきたこと、昭和六一年一二月八日社団法人ふくしま文庫の設立が許可されたことが認められ、これに反する証拠はない。

そこで、本件処分当時のふくしま文庫が本件条例四条一項二号にいう「図書館」に該当するかどうか検討する。

本件条例二条は、本件条例で使用する用語は風営法及び同法施行令で使用する用語の例によると定めているところ、風営法二八条一項によれば、図書館とは、図書館法二条一項に規定するものとされているから、本件条例四条一項二号にいう「図書館」とは、図書館法二条一項に規定するものを指すことになる。そして、同項によれば、「図書館」とは、「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設で、地方公共団体、日本赤十字社又は民法第三四条の法人が設置するもの」と定義されている。右のように図書館法上の図書館の設置主体は、右各団体に限定されているところ、前記認定によれば、原告ふくしま文庫は、本件処分当時は、民法三四条の社団法人設立の許可申請中であって、設立中の社団法人にすぎず、図書館法二条一項に規定する設置主体に該当しないから、その設置、運営に係る当時のふくしま文庫をもって、本件条例四条二項二号にいう「図書館」と認めることはできない。

原告ふくしま文庫は、ふくしま文庫の敷地は、本件条例四条二項二号にいう図書館の「用に供するものと決定した土地」に該当すると主張するので、検討するに、同号に規定する「これらの用に供するものと決定した土地」とは、同号の保護対象施設の設置についての権限ある機関が正式に施設の用に供する旨決定した土地をいい、これらの用に供することが単に予定されているというだけでは足りないものと解するのが相当である。これを図書館についていえば、地方公共団体、日本赤十字社又は民法三四条の法人の各機関が図書館を設置することを決定した土地をいうものと解すべきである。

しかるに、原告ふくしま文庫は、前記認定のとおり、本件処分当時、設立中であり、未だ民法三四条の社団法人ではなかったのであるから、ふくしま文庫の敷地が社団法人設立後、同法人の設置、運営する図書館の用に供されることが予定されていたとしても、右敷地をもって図書館の用に供するものと決定した土地ということはできない。原告ふくしま文庫の前記主張は採用しない。

よって、本件処分当時のふくしま文庫は、本件条例四条一項二号の保護対象施設に該当せず、またその敷地をもって右施設の用に供するものと決定した土地ということはできないから、原告ふくしま文庫は、本件処分の取消しを求める原告適格を有しないものというべきである。

3  原告組合及び原告ふくしま文庫を除くその余の原告らについて

原告田阪正利は、原告組合の理事、本件病院の院長及び原告ふくしま文庫の理事であり、原告中本康雄は、原告組合の理事及び原告ふくしま文庫の副理事長であり、原告村田康昭は、原告組合の理事であり、原告藤川春雄は、原告ふくしま文庫の理事であり、同森岡富壽は、同監事であるというのであるが、前記二の冒頭で検討したところに照らし、風営法上、保護対象施設の設置者のほかに、その単なる役員にすぎない者につきその個別的利益が法的に保護されているものと解することはとうていできない。

次に、原告岡崎太、同高木瑠璃子、同岡崎政文及び同宇野美子は、いずれも本件パチンコ店の近隣住民であるというのであるが、前記二の冒頭で検討したとおり、風営法は、制限地域に関する規定により保護対象施設の設置者については、善良の風俗、清浄な風俗環境の保持という一般的公益と並んで、その個別的利益をも法的に保護しているものと解すべきであるが、右以外の一般の近隣住民につき環境等の利益を個別的に保護したものと認めるのは困難であり、かかる近隣住民は、右一般的公益の保護を通じて付随的、反射的に保護されているにすぎないものと解するのが相当である。

よって、右原告らは、いずれも本件処分の取消しを訴求する原告適格を有しないものというべきである。

三以上説示のとおり、原告らの訴えは、いずれも原告適格を欠く不適法な訴えであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官高升五十雄 裁判官山﨑宏 裁判官渡邉弘は、転補につき署名押印できない。裁判長裁判官高升五十雄)

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